基本要件・位相、位相歪、群遅延、過渡特性


 位相についてはどの様な内容を論議しているかを正確に認識していないと誤解を生じやすい。数学的には、三角関数、複 素数、ベクトル、微分と積分、微分方程式、フーリエ級数などで解析や計算を行うが専門的になるの で オー ディオに関係することを簡単に記す。


Ⅰ.位相と位相歪について


  位相についてはどの様な内容を論議しているかを正確に認識していないと誤解を生じやすい。数学的には、三角関数、複 素数、ベクトル、微分と積分、微分方程式、フーリエ級数などで解析や計算を行うが専門的になるの で オー ディオに関係することを簡単に記す。

 

 ①.1個の純音信号の場合:

 位相はほとんど意味は無い。信号の瞬間、瞬間の大きさを確定させる手段である。 [y(t)=Asin( ω t+Φ)]

  

 但しこの1個の純音信号をSPに加えると振動板の各場所から発音するので、2個以上の同じ周波数の純音音源が存在する。

 又オーディオルーム等に放出された音源も反射により2個以上の音源が存在する。 

 デバイディングネットワーク、チャンネルデバイダーによるクロスオーバー周波数付近では2個の純音信号がSPから放射され る。

 これらの場合は下の項目②が適用できる。

 

②.2個以上の同じ周波数の純音音源がある場合: (ベクトル加算)

 2個の音源の位相の関係で加算されたり打ち消しあったりする。

 例として2個の1Vの音源がある時、これをベクトル加算すると、信号間の位相差が0度の時2V(+6dB)、位相差 90度の時√2=1.41V(+3dB)、位相差135度の時 0.77V(ー2.3dB)、位相差180度の時 0V(-∞dB)と位相によって信号レベルは大きく変化する。

 

 ベクトル加算した結果は、新たな振幅の大きさと位相特性を持った1個の純音信号となる。

 この「2個以上の同じ周波数の純音音源」の周波数が変わったところで位相の関係も変われば信号レベルも変わる。すなわち周 波数 特 性にピークやディップが出来る原因となる。

 

③.基本周波数とその整数倍の多数の高調波周波数信号の位相関係(位相歪):

  (フーリエ級数、 音色に関するOHM の法則)

 基本波及びそれぞれの高調波の位相の関係が変わる(位相特性がフラットでない)と合成した波形は変わ る・崩れるが、それぞれの純音信号そのものに変化は無い。(ので音色には影響しないのか)


Ⅱ.群遅延特性について


 位相特性と密接な関係がある。群遅延時間は位相の変化を微分して得られる。         

     Tg=-dΦ/dω

 従って位相の変化が大きくなったところに生じる。

 dω が分母にくるため周波数の低いほうで大きくなる。

 

 検知限界は参考資料を参照ください。4kHz以下では概ね1.5~2波長分の時間に相当するようだ。

 同じようなことは、マルチウェイSPの場合振動板の前後位置が異なる場合にも起こる。


Ⅲ.位相歪と音質音色について:音色に関するOHMの法則


 上記各特性の中でも位相歪の論議は多い様に思う。二つに分けて考えることが必要だろう。

 

1.位相は上記の「周波数特性」「群遅延時間」に関連した特性であり、ある条件の下で位相を変えれば周波数特性や群遅延時 間が変わる。

すなわち位相の差によって周波数特性に許容できない差が出れば音質に差が出る。同様に群遅延時間に許容できない差が出れば音 質に差が出る。

 

2.周波数特性が同一で「位相歪」そのものが音質評価に差が出るかどうか。

 下記参考資料2:「倍音のスペクトルさえ同一ならば位相関係はどうあっても音色には影響しないという説はかなり有力に信じ られている」 :音色に関する OHM の法則

 

 上記から「周波数特性が同一で、群遅延時間が許容できる範囲であれば、位相歪と音色(音質)は関係ない」はかなり確かなのだ ろう??(群遅延時間を条件に追加)

 

 次のページで試聴試験を行う「基本要件、位相歪群遅延と試聴実験」

これらの具体的な特性例や応用等は「オーディオ理論と実験」の各ページを参照ください。


参考資料

2.早稲田大学理工学部音響研究室  (音 響工学原論  より引用 )
耳の 構 造 と 機 能 6・2
「音色の相違は物理的に測定した倍音成分の含み方の相違に対応する.しかし,各倍音成分間の位相関係が 音色に関係するかどうかは未だはっきりしていない.

しかし倍音のスペクトルさえ同一ならば
位相関係はどうであっても音色には影響しないという説はかなり有力に信じられている.
音の知覚の内で最も単純で基本的なものは接続正弦波形の音波による知覚であって,色々な複雑な音色の音 はすべて種々の純音の合成によって構成することができるという説を提唱した.これを音色に関する OHM の法則といい,後に HELMHOLTZ によって詳細に証明されたものである.これが倍音成分の位相が音色に関係しないという説の根拠をなしている。」


Ⅳ.過渡特性(現象として何らかの信号の遅れを含める)


 電気回路での過渡現象はラプラス変換を応用した計算で解きますが、ここでは学術的な過渡特性かどうか は別として源信号に対する波形やエンベロープの立ち上がり、立下りの遅れを生じる現象を記してみる。いくつかの原因、現象が 考えられそうだ。

 

①.周波数特性の高音域が低下している場合

 矩形波やステップ応答の立ち上がりが遅れる。

ウーハーの立ち上がりが早いか遅いか矩形波を使って説明したものを見ますが、高域を十分減衰させて使用するので、ウーハー単 独で矩形波を正しく再現することはありません。高域の信号をどれだけ含んでいるかによります。(フーリエ級数解析)

 

②.ある周波数群で群遅延がある場合

 インパルスやステップ応答で群遅延のある周波数が遅れて再生される。

ウーハーの低域。チャンネルデバイダー等のクロスオーバー周波数付近、フィルタの次数が大きくなるほど遅延時間は大きくな る。

 

③.共振性の特性が存在する場合

 信号は時間と共にあるレベルまで増大する。源信号がなくなってもある時間かかって減衰する。

 SPの共振周波数、共振を利用したSPボックス、オーディオルームの定在波等。

 

④.AMPのダンピングファクタに依存するもの

 SPの共振周波数での共振の大きさをダンピングファクターを大きくすることである程度抑制できる。

 

 この様に「周波数特性」「位相特性」「群遅延特性」「過渡特性」は、お互いに関係している場合が多い。

 これらの特性は電気的、音響的に計測すると、差異をを確実に見ることが出来るが、どのレベルで音質音色として判別できるか は、多くの権威ある実験を参考にする必要があるだろう。

 個人としてもどの程度まで判別できるかを把握しておくことも、自分のシステムを構築する上で有益であると思う。